Shigeko HIRAKAWA
- 空気が危ない? プロジェクトの誕生 2004



地球の温暖化や人間の呼吸器障害を招く大気汚染が、昨今ますます、世 界の重大な話題として取り上げられています。汚染された都市を逃れ、自然のなかへ肺一 杯きれいな空気を吸い込みに出かける人々も多い中、どれだけの人が自然も人間同様大気汚染に苦しんでいることを知っているでしょうか。

「四本に一本の木が、25%の枯葉に侵 され、十本に一本の木が10%の葉の脱色に侵されている」。これは、「大気汚染が森林に及ぼす影響を計測監視し、森 林を大気汚染から保護する」目的で、ヨーロッパ連合が欧州全域にわたる森林の統計を取り、発表した報告書の内容の一部です。「四本に一本の木が、25%の 枯葉に侵され、十本に一本の木が10%の葉っぱの脱色に侵されている」という数字をもっと均して言えば、「全森林の16%が枯葉に侵され、森林の1%が脱 色している」ということになるでしょう。

大気汚染は森林のエコシステムをも侵し ているのです。
・・・さてここで、私が問題とするの は、森林が「脱色」している事実です。
葉は、葉緑素といわれる色素によって緑 に見えるわけですが、葉緑素は、植物が二酸化炭素と水を取り込んで、太陽光線をエネルギーに、グルコース(ブドウ 糖)と酸素を作り出す働きをするものです。この働きを「光合成」といい、葉緑素が作り出すグルコースは、植物自身の栄養素となり、酸素は地球上の生物が生 きていくのに必須不可欠の空気となっています。葉緑素の減少は、植物の二酸化炭素を吸収する能力の減少であり、植物が作り出す酸素の量の減少を指していま す。
森林の1%の脱色は、まだわれわれの目 には見えていません。しかし、われわれの眼がそれとはっきり気づくときは、すでに手遅れな状態になっているのではな いでしょうか?

森林の緑が褪せて見えるとき、私たちは 《空気の危機 – Air in Peril》のまっただ中にいるのです。
空気が危ない? プ ロジェクトは、こうした再生能力を失い始めた森林の窮地を代弁し、視覚的に働きかけをするために生み出したプロジェクトです。

空気が危ない?プ ロジェクトは、太陽光線に反応する人工のピグメントが注入されているプラスチックの葉が、昼間は紫色になり、また夜は色が消えて白くなって木々が行う光合 成を毎日視覚化し、自然の働きを目に見えるようにするばかりではなく、エコシステムが侵されはじめていることを訴える「光合成の木」、太陽エネルギーで起 きる電気のメカニズムを彫刻にした「空気製造機(風車)」、「空気製造機」が作り出す「酸素分子」で構成されています。
平川滋子


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光合成の木から、光合成の森へ  photomontage






1. « 光合成の木 »

« 光合成の木» は、プロジェクト « Air en péril/ 空気が危ない?»の中心エレメントです。
この木は、木が行う光合成を真似て、失われた葉緑素に代わり、もう一度、
人工的に森林に色をとり戻そうとする木です。

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« 光合成の木» は、プロジェクト « Air in Peril / 空気が危ない?»の中心エレメントです。 木が行う光合成を真似て、失われた葉緑素に代わり、もう一度、太陽光線で反応して着色する特殊ピグメントを混交したプラスチックで、人工的に森林に色を取 り戻させようとする木です。 ただし、森林は緑にはならず、紫色になります。緑と紫の過激な対比は森林の危機を最大限にアピールすることになるでしょう。 特殊ピグメントを混交したプラスチックは、太陽光線のUV光に反応するので、プラスチックの葉は、太陽を受ける日中は紫色をし、また太陽が沈む夜は色が消 えて乳白色がかった透明になり、あたかも、ゴースト・ツリーといった様相を呈することになります。


               


近 未来: 光合成の森
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2. ≪空気製造車ー 風車≫

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≪空気製造車≫は、葉緑素を啓発する太陽エ ネルギーを表現したもので、 森林に汚染されていない空気を送り込む役目をする風車です。






3. « 酸素分子 »


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2004年、ニューヨークのアーティスト・イ ン・レジデンス、アート・オーマイで実現したインスタレーション、《酸素分子》
全長25m